川口能活 ジュビロ磐田 スペシャルインタビュー

果敢な飛び出しと強い精神力を武器に、守護神としてゴール前に立ちはだかる川口能活選手。日本代表では4度のワールドカップ出場など、輝かしいキャリアを積んできた。現在は、Jリーグのジュビロ磐田に所属し、若い選手たちとともに奮闘を続けている。その川口選手がサッカーを始めたきっかけや小学校時代の思い出、こども達へのメーッセージなどを語ってくれた。

 

最初にサッカーを始めたきっかけをおしえてください。

『キャプテン翼』を見て、強い憧れがあったのと、サッカーをしていた兄から「サッカーやってみろよ」と勧められました。その2つのことがきっかけですね。当時は今ほど情報もないですし、サッカーの試合の映像もあまり見たことがありませんでした。だから『キャプテン翼』を見て少年団に入るまでは、サッカーのことはほとんど知らなかったです。僕は富士市の生まれで、清水や藤枝、磐田や浜松といった静岡県の他の街に比べると、富士市はそれほどサッカーが盛んではない地域でした。

サッカーを始めるときに不安はありませんでしたか?

僕自身がすごく元気な子だったので、何かに打ち込むことが必要だったと思うんです。それまでも友達はいろいろな習い事をしている中、僕は外で遅くなるまでキックベースやドロ警、缶蹴りなんかをして遊んでいただけでした。とにかくエネルギーがあり余っていたんです。そんなときに出会えたのがサッカーでした。だからサッカーに対する不安、サッカーを始めることに対する不安はなかったです。

実際にサッカーを始めてみてどうでしたか?

初日の練習で3年生対4年生の試合をしたんです。そのとき監督から、試合後、入れられた点数×5周グラウンドを走るように言われていて、僕たち3年生のチームは、4年生に8-0で負けたんです。それで、いきなりグラウンドを40周走らされました。最初の練習がそれでしたね。9年間生きてきて、そのような衝撃は初めてでした。でも、逆にそれがサッカーに打ち込めるきっかけになったのかなと今になって思いますね。

サッカーを始めてからは、1日をどんなふうに過ごしていましたか?

6時半ぐらいには起きて、朝食を摂って登校していました。僕が通っていた小学校は、朝、登校したらグラウンドで運動しましょうという時間が設けられていました。走ったり、遊具で遊ぶことを7時半から8時30分までやってから授業です。その後、2時間目と3時間目の間にある「小鹿タイム」という20分間の小休憩も外で遊ぶ時間でした。3時間目、4時間目を過ごして、給食の後にある昼休みも20分ほど遊べる時間があって、みんなで遊びました。5時間目が終わって帰宅した後、少年団の練習へ。少年団の練習は4時45分から2~3時間。僕らのときは子供が多く、学校の照明をつけて夜遅くまで毎日練習できるような時代でした。それから家に帰ってご飯を食べ、宿題を片づけてから9時ぐらいには寝ていましたね。1日を外で過ごす時間は多かったと思います。

最初からゴールキーパーだったのですか?

いえ、違います。キーパーは少年団に入る前、兄と遊びでちょっとやったことがあるぐらいで、それまで本格的にはやっていませんでした。それが練習試合でたまたまキーパーをやることになって、良いプレーをして試合に勝ったんです。そのとき監督に「これからキーパーやってくれ」と言われました。そこからずっとゴールキーパー一筋です。

初めての試合や大きな大会で緊張するようなことはありましたか?

やっぱり緊張しますよ。今でも緊張はします。ただ僕は試合前に緊張するタイプで、いざ試合が始まってしまうと楽しくなるというか、気持ちが楽になる。試合前はいろいろと考えてしまうんですね。緊張をほぐす方法は無くて、そのままの状態で挑むしかないですね。でも、本番のための準備をしっかりすれば、試合ではその結果がパフォーマンスとして出ると思います。子供の頃から練習はとにかく一生懸命やっていました。

練習は楽しくできていましたか?

最初は兄に勧められたということもあり、自分から「サッカーが好きだからやりたい」とか、そのような気持ちで始めたわけではなかったので、正直練習はあまり好きではなかったです。どちらかというと嫌いで、仮病を使って何度か練習を休んだこともあります。ただ、当時の先生は見抜いていました。3回目の仮病のときにすごい剣幕で怒られ、しばらく練習に参加させてもらえなくなりました。それからの1週間、みんなの練習をグラウンドの隅で見ていて気づきました。やっぱり僕はサッカーが好きなんだ、みんなと一緒にサッカーをやりたいと。それで先生のところに謝りに行って、サッカーをやりたいことを伝えたら、先生も許してくれました。それから練習は1日も休まなかったです。自分はどちらかというと、そのような怠けグセがあったんですけど、その先生の指導のおかげで自分が変わることができたと感じています。

当時から練習や試合で目標を設定していましたか?

高校サッカーやJリーグの前身の日本リーグ、日本代表やトヨタカップといった試合を見て、ああいう選手になりたいという気持ちに漠然となっていました。そのような選手達と同じようなプレーをすることが目標だったのかもしれません。両親が当時は高価だったビデオデッキを買ったこともあって、サッカーの試合を録画してずっと見ていました。常に目標を意識しながら練習に取り組んだというよりは、一流のキーパーのプレーを真似していました。高校サッカーの故真田雅則さんや日本リーグの森下申一さん、松永成立さんや、当時やっていた『ダイヤモンドサッカー』という番組で見たドイツのハラルト・シューマッハーなんかのプレーを見て、ああこういうふうになりたいなと思いながら動きを真似しましたね。好きな選手のプレーを真似して自分で動きを身につけることが上達の近道になると考えたのだと思います。

小学生当時、監督やコーチのアドバイスで一番心に残っていることはありますか?

僕は褒められて伸びるタイプだったのかもしれないのですが、富士の選抜チームでプレーしていたとき、ある試合でみんなの動きが悪かったのですが、僕ともう1人の子だけが良いプレーが出来ました。監督が厳しい方で普段僕らを褒めることがなかったので、それを褒められたときは本当にうれしかったです。具体的に何を言われたかは覚えていませんが、一生懸命やって褒められるっていうことは大きな自信になりました。

ゴールキーパーの子供たちはどんな練習をするのがいいでしょうか?

僕は4年生からキーパーになりましたけど、セービングが下手でしょっちゅう傷だらけになっていたんです。僕の所属していたチームはすごく厳しくて、練習中でも長ズボンを履いちゃダメだったんです。短パンでやっていて、血まみれになっていました。そういう環境の中で痛いのが続き、勝手に防御反応が起こっていたと思うんですよね。そういう怪我をする動きをしないように、良い試合やトップレベルの映像を見て、ちょっと飛び方が違うなっていうことに気づいて、そういう動きを自分でやるようになりました。だから、自分の中で研究して身につけていくことだったり、真似をする事が重要だと思います。僕も最初は基本の基の字もできていませんでしたから。

川口選手は相手の足元に飛び込むプレーが魅力の一つです。それは子供の頃からの特徴でしょうか?

足元に飛び込むプレーは小さい頃から恐らく変わっていません。それは技術というより武器でした。僕はそれを高校サッカーや日本リーグの試合で見て、ああいうプレーをしたいなと思ってやってきました。だからずっと信念を持ってできているのはそのプレーです。小さい頃から変わっていないプレーで、染みついたプレーだと思っています。そういう足元に飛び込むプレーで、骨折もしたことがあるし、脳震とうも5、6回やっています。怖くないかともよく聞かれますが、そういうプレースタイルで僕は成功をつかんできたので、それには替えられないものがあります。もちろん、怪我をしたときは痛いですが、代わりに経験を積んで、無理に行かなくても良い場面もわかってきました。前に出て飛び込んで行くというプレーの基本的なコンセプトはずっと変わりません。

試合でミスをしたときの切り替え方法は?

失敗は誰でもします。大切なのは失敗しても気にしないこと。ミスをして表情や態度に出てしまうと、必ずそこを突かれます。そういう意味で、プロの選手は気持ちの切り替えがとても重要で、僕が心がけているのは、もしミスをしても平然としていることです。ミスをしたらもちろん落ち込むし、あとで反省をしないといけませんが、試合中はそういう素振りを見せないようにします。人間というのはうまくいかなくなると、なかなか堂々とできないものです。でも、サッカーの試合においては、そういうときこそ堂々と自信を持ってプレーすることが重要だと思います。

子供たちはどうすれば伸びますか?

褒めることでしょうね。自分がそうだったように指導者や親に、「今日のプレー良かったよ」とか「いつもと違う良い動きしてたよ」とか、何でもいいから褒められ、喜びを知ることが子供が伸びる近道かなと感じます。

最後に今、サッカーをしている子供たちに伝えたいことはありますか?

僕たちの時代に比べてはるかに情報もあるし、目標設定もしやすくなっている反面、競争も激しいですよね。でも、環境は素晴らしくなっているので、サッカーができることに喜びを感じてほしいと思います。芝生のグラウンドで試合ができたり、人工芝のグラウンドで練習ができたり、そうしたことは僕たちのときは県大会の準決勝ぐらいまで行かないとできませんでしたから。だからこそ、喜びを感じながらサッカーを楽しんでほしい。それと、空き地が無くなってきているというサッカーをプレーする環境の問題もあるけれど、それでもやっぱり外で遊んでほしいと思いますね。

2012年12月 インタビュー


 

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